ブランフォード・マルサリス
ザ・シークレット・ビトゥウィーン・
ザ・シャドウ・アンド・ザ・ソウル

ソニー
オープン価格

男たちのロマンを聴く

ジャズ界を牽引してきたテナー・サックス奏者、ブランフォード・マルサリスが、新作《シークレット・ビトゥウィーン・ザ・シャドウ・アンド・ザ・ソウル》を発表した。クァルテット(4人編成)でのスタジオ録音作としては7年ぶり。満を持してのレコーディングだが、ブランフォード自身も次のように語っている。「各メンバーの精進が素晴らしく、その成果を録音できてとても嬉しく思っている」。

ブランフォード・マルサリス・クァルテットの演奏する曲は、大きなエネルギーをもつパワフルな曲と、クラシックでの研鑽を活かした独自の美しさをもつバラードに分けることができる。今作は双方から選曲され、バランス的にも最高に楽しめた。

また、全体的にブランフォードのサックスからフリー・ジャズの要素が聴こえた初めてのアルバムだったが、演奏のエネルギーが高まると、音楽がフリーの方向に傾くことがあるのだそうだ。

なかでも、〈ライフ・フィルタリング・フロム・ザ・ウォーター・フラワーズ〉は3年前に亡くなった母親に捧げられた曲だが、込められたエモーションの強さに筆者も揺さぶられた。

 

 

 

吉田次郎
レッド・ライン

ソニー
3000円

いい音で男の本音が聴こえてくる

吉田次郎の新作《レッド・ライン》は、広い分野で活躍してきた彼の、ギタリストとしての全体像が1枚に集約されたと感じた。そして、ジャズ全般を広く愛してきた彼らしいヴォイスが聴こえてきた。

まず、モンゴ・サンタマリア作曲の〈アフロ・ブルー〉でアルバムは幕を開けるが、スティーヴィー・ワンダーの音楽監督を務めるシンガーのマーロン・サンダースが、躍動感のある歌声で参加。吉田のギターはロック調で、それもちょっと遠くのほうから聴こえてくるような音響の工夫がしてある。美しいピアノの音色もまたこの作品の魅力のひとつで、人気テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の音楽監督でもあるヴァーナー・ギリッグによるものだ。

タイトル曲〈レッド・ライン〉は、都会的でスリリングな演奏が展開される。どの曲も、超絶テクニックをメンバーが披露しているが、それ以上に歌に込めた心が伝わってくるのは、それが吉田の意図だからだろう。サウンド的にも凝っているから、いい音で男の本音が聴こえてくる。吉田が心を砕いたすべての要素が相まって、聴く者の心をつかむのだ。

 

 

若井優也
ウィル

Body&Soul ジャズ サポート
1852円

名手3人にしか出来ない集中力

そしてもう1人目が離せない、若井優也というピアニストがいる。東大出身ということで話題になったが、今作《ウィル》で、詩情ある彼のジャズ・ピアノの本質が見えたと思う。ピアノ・トリオというジャズでは基本形でのレコーディングで、楠井五月の歌うようなベース、石若駿のミュージカルなドラムスとの三位一体が生んだ美しさである。

3人とも20代後半から30代前半とジャズ界では若手だが、深い信頼関係を築いており、互いの音をよく聴きあう。その信頼があったから、若井も思う存分ピアノに向かえたのだろう。ソロで弾くビル・エヴァンスの名曲〈チルドレンズ・プレイ・ソング〉は、無垢で密やかな音楽の喜びを伝えてくる。

最後に収められた組曲〈ウィル〉は、名手と言われる今のこの3人にしか出来ない集中力での演奏。人間的な感情の美しさに始まり、最終的に大自然の前に首を垂れる若井の精神が描かれている。素晴らしい若手の成果に胸が踊る。