「ずっと同じ席に座り、同じようなやり方を続けていたのでは、得られないものがある」(撮影:小林ばく)

仕事も住む場所もひとつでなくていい

最近は、一人の人間がひとつの仕事しかしてはいけないという世の中ではなくなってきたような気がします。仕事をいくつか持っていていいし、住む場所もいくつかあっていい。

もちろん、自分にとって俳優の仕事が大事な軸であることは変わりません。今までも一作一作、精魂込めて演じてきたつもりですし、これからもその姿勢は変わらないと思います。

この冬の〈農閑期〉は、舞台とじっくり向き合う時間です。映像の仕事が中心なので、舞台はまだまだ初心者。だからこそ挑戦しなくてはいけないと感じているし、やりがいもあります。

ずっと同じ席に座り、同じようなやり方を続けていたのでは、得られないものがある。慣れないことにもチャレンジし、自分の足で歩きまわって、新たなものを見つけて感動することを大事にしたいと思っています。

今回参加するのは、『hana―1970、コザが燃えた日―』という作品で、背景となっているのは、返還前の沖縄で起きたコザ騒動です。1970年12月20日、アメリカ兵が起こした事件をきっかけに住民による反乱が起きた、日本でも珍しい事件です。この作品は、その夜、とあるバーに集まった家族の物語。

僕が演じるハルオは、アメリカ兵が出入りする「Aサインバー」のママの息子。ハルオには弟のアキオと妹のナナコがいますが、二人とは血が繋がっていません。

ハルオは終戦後、生まれた場所も本名も年齢もわからない状態でママに拾われたことがコンプレックスになっています。「自分は何者なんだ?」という思いを抱え、どこか屈折している。

彼はある出来事をきっかけに、道を踏み外してヤクザになってしまいますが、血の繋がらない家族のことはとても大切に思っている……。切ない台詞や、つらい事実も登場しますが、温かさや幸福もある。何気ない会話のなかから、そういうものを表現できるよう演じたいですね。