とうとう学校に行けなくなり

しかし、身体はつらくても、せっかく合格した第一志望校です。Aさんは、学校に行きたいという意識だけはしっかり持っており、「明日こそは遅刻しないで行くぞ」という固い決心をして、寝る前には教科書から制服まで準備を整えます。

でも、どうしても翌朝は起きることができません。起きても身体がだるく、頭がぼーっとして、食欲がなく、立つとめまいがして、すぐにしゃがみこんでしまいます。

夏になり、蒸し暑い日が続くようになるころ、Aさんはとうとう学校に行けなくなってしまいました。

夏になった頃、Aさんは学校に行けなくなってしまいました(写真はイメージ。写真提供:写真AC)

Aさんの朝の状態は、とても常識では計り知れないものでした。親がいくら揺り動かしても、耳元で怒鳴っても、ぴくりとも動きません。たまりかねた母親が、強引に布団をはがして、リビングまで引きずってきても、だめです。ほっぺたをひっぱたいても、すやすやと寝息をたてています。

これだけ手荒く扱っているのに、あとで聞いてもAさんにその記憶はありませんでした。それどころか、「どうして起こしてくれなかったのよ」と母親を責めるのです。

結局、昼すぎまで目を覚ますことができず、それに伴って、夜、眠ることができなくなりました。

早く寝れば早く起きられるだろうと思いベッドに入るのですが、眠らなければいけないと焦れば焦るほど、かえって目が冴えてしまいます。眠れないので夜中に起き出し、パソコンをいじったり音楽を聴いたりします。眠くなるのは朝方です。

そんな姿が、父親にはふがいなく見えたのでしょう。「朝、起きないとはなにごとだ」と厳しく叱りつけました。「起きたくても、起きられない」と泣きながらAさんが訴えても、両親には信じることができません。なぜかというと、父親が帰宅する午後八時すぎ、Aさんはまったくもって元気だからです。

とうとう、Aさんは一学期を棒に振ってしまいました。なんとか受けた定期試験の結果も散々でした。

怒っているだけだった父親も、さすがにただならぬ事態であることに気づき、母親と額を集め、「学校になじめないのではないか」「勉強についていけないのではないか」「心の病気では」「仮病かもしれない」など、あれこれ考えました。でも、いい答えは見つかりません。

途方に暮れて、インターネットで検索して私のクリニックを訪れたときには、発症から一年が経過していました。