50代後半には仕事をやめているはずが
「行ってきます」
凍てつく寒い冬の日も、雨の日も、バイクにまたがり、明けやらぬ暗い町へ出て行く私。幸い、この季節はいくぶん楽だが、毎朝4時起きの日々は続いている。車の免許を持っていないため、バイクで行くしかない。それにしても、まさか還暦を過ぎて、こうもハードな生活が待っているとは夢にも思わなかった。
若い頃、内臓の手術を3度も経験し、体力にあまり自信がない。そのため、50代後半には仕事をやめて、家でゆっくり好きな手芸でもして過ごそうなどと思っていた。ロッキングチェアに揺られながら、編み物をしている自分の姿を夢見ていたものだ。それが、67歳にもなって、老骨に鞭打つ毎日が続こうとは……。
夫、娘と息子の4人家族。子どもたちは2人とも、適齢期を過ぎても結婚しなかった。息子はカメラマンをしている。家にはとっかえひっかえ、違う女の子を連れてきていた。いずれ、そのうちの誰かと結婚するのだろう。そんなふうに思っていたが、なかなか身を固める様子がない。
私の友だちはもう、50代の頃から孫のいる人ばかり。孫の話を聞くたびに羨ましくて、私の子どもたちにはいっこうにその気配がないことに、焦りを覚えていた。娘には、友人を通じてお見合いもさせたが、嫌がるばかりでまったく乗り気ではない。せっかく紹介してくれた友人にも迷惑をかけてしまい、もう諦めた。
息子は、ガールフレンドはいても、結婚までは考えないと言うばかり。2人とも四十路に近いというのに……。私には姉が3人いるが、その子どもたちはそれぞれ身を固めていて、その都度お祝いをあげている。こちらが、もらうことはない。そんな事情もあって、私は2人の子どものどちらかでも結婚してくれることばかり願うようになった。