同じことを何度も聞かされ
私が話した父の様子は、90代の男性としてはよくありがちな症状ばかりだということが、包括支援センターの人の反応でわかった。「健康」を誇る父は、審査の項目でひっかかるものが少ないため、介護審査を依頼しても「要支援」がつかない可能性が高い。
私が出張をする時に、公的サービスを利用して安否確認に来てもらいたいというのは、虫のいい話だったようだ。がっかりした部分もあるが、一方で、相談に行ける機関に聞き取りをしてもらった安心感を得ることはできた。本当に父に支援が必要な日が来るまで、頑張って世話をしようと腹を括った。
父は一日に何度も同じことを言い、それが毎日繰り返される。ほんのいくつかの話題しか、父は興味を示さなくなっている。一番頻度が高いのは、両国国技館のマス席で、孫二人と相撲を観覧したという話題だ。東京場所でない時でも、相撲が開催されている15日間、毎日聞かされる。6場所あるから、その回数は年間90回となる。
一緒に行った孫とは、私の息子たちだ。二人から話を聞いているので、それが2015年のことであるのを、私ははっきりと記憶している。以来、7年間繰り返される会話は、毎回少しも変わらない。
「あの時見ておいて良かった。マス席は背もたれがないから、腰が疲れたけどな」
「そうだね、良かったね、パパ」
「お前は行ったことがないからわからないだろうけど、立ち合いで力士がぶつかると、バーン!と、すごい音がするんだ。行って良かった」
この会話には、父の優越感が散りばめられている。マス席を取れたこと、テレビでは伝わらないぶつかり合いの音の臨場感。娘を筆頭に、世の中のほとんどの人が経験できない体験をした幸福が、話す度に父の心を満たす。