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罪のない話ではあるが、仕事が忙しい中でバタバタと夕飯の支度をしている私は、「そうだね」と相槌を打つのが面倒になることもあって、つい言ってしまう。

「昨日も言っていたよ」

すると、珍しく父は謙虚な反応をした。

「俺、ボケたのかな?」

私はドキッとした。親を介護している多くの方は、このような場合、どう返事しているのだろう。「うん、ボケたね」と本当のことを言うか、あるいは「みんな年取ったら、言ったこと忘れるよね」と慰めるのか。

前者を選択した場合、弱い者をいじめたみたいな罪悪感がある。しかも、それによってボケが解消される訳ではない。後者の場合は、労わっているように聞こえる言葉ではあるが、親はそれによって、往々にして自分を「年相応の物忘れである」と認識してしまう。そして、更に堂々と同じことを言うようになる。

一日に何度も直面するが、正しい対応というのはなくて、ほぼ受け止める子ども側の気持ちの問題だ。私もいずれこのように、何度も何度も同じことを言う日が来るだろうと思うと、冷たい態度は取れない。将来、ブーメランになって返ってきたらどうしようという不安に襲われ、心が揺れる。