蛇口の調整はいくつになっても難しい

それなりの紆余曲折を経て思うに、恋愛のパートナーシップは、シーソーのように力が不均衡な状態にあるほうが燃え上がる。しかし、それでは長く続かない。

恋愛や結婚は、愛情を多く注いだほうが弱者になるのが忌々しい。

離婚経験者から、「自分が夫の所有物のように感じられてつらかった」と聞いたことがある。サポート役に回り、尽くした末にそう感じてしまったなんて。ギッタンバッコンと権力が適宜譲渡されれば違うのかもしれないが、長く一緒にいるには疲れてしまうし、いずれは力関係が固定されていく。

ユーミンは不均衡なパワーバランスの予兆を歌いたかったわけではないだろう。もしかしたら、こういう時がいちばん楽しいと知っていて書いた曲なのかもしれない。

それにしても、当時の私はどうやってこの曲にたどり着けたのか。「ナビゲイター」はシングル以外だと、2001年発売のバラードベストにしか収録されていない。

ユーミンのCDを買うようになったのは1985年の『DA・DI・DA』から。それ以前の作品は図書館で借りてカセットテープにダビングした。しかし、すべてアルバムだ。2001年のバラードベストは聴いたことがない。

それでも記憶に色濃く残っていたのだから、私はこの世界観がかなり好きだったのだろう。力の不均衡が招く不幸など知らなかった私には、愛情を湯水のように注ぎたい欲求があった。いまでもそのケがないとは言い切れない。しかし、見返りを求めない聖母にはなれないこともわかっている。蛇口の調整はいくつになっても難しい。

私に幼子でもいれば、すべてを捧げる愛の歌はいまでも美しく聴けるのだが、それも難しいので犬でも飼おうか。


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年齢を重ねただけで、誰もがしなやかな大人の女になれるわけじゃない。思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。「私の私による私のためのオバさん宣言」「ありもの恨み」……疲れた心にじんわりしみるエッセイ66篇