ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。好きな人のためなら何だってやる、とうたった恋愛ソングが好きというスーさん。しかし大人になった今、現実の恋愛や結婚を考えれば「不均衡な状態では長く続かない」と感じているそうでーー。(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)
我ながらずいぶん派手にハンドルを切ったなと
松任谷由実さんの「ナビゲイター」を久しぶりに聴いた。1977年に発売された9枚目のシングル「遠い旅路」のカップリング曲。私は昔からこの曲が大好き。
「ナビゲイター」は、パートナーが運転する車の助手席に座る女性の目線で描かれた恋愛ソング。とにかく大好きな人と一緒にいることが嬉しくて仕方がない女の子の歌で、「おかしすぎて涙が出る 今がうそみたい みんな捨ててどこでも行く 何だってやる」というサビが印象的だ。
ユーミンはリリースの前年に松任谷正隆さんと結婚しているので、ドライブはこれからの人生のメタファーなのかもしれない。この曲を好きになった時の私は中学生くらいだから、そんなことまったくわかっていなかったけれど。
ユーミンの楽曲がサブスクで解禁されたおかげで、私はいつでも「ナビゲイター」が聴ける。ありがたいことだ。
改めて聴くと、おぼこかった中学生の自分と、「ナビゲイター」のような未来が訪れなかったいまの自分の対比に笑いが漏れる。大人になった私は、鼻歌を歌いながら自分が運転する車にひとりで乗っているような人生を送っているのだから。
すべてをなげうってでもこの人についていきたい、と熱望するような恋なら私もしたことがある。なにも知らなかった頃に。自己犠牲と愛情を取り違えていた時代だ。
それがいまでは「自分の人生の舵は誰にも渡すな!」と大声を張り上げている。ずいぶん派手にハンドルを切ったなと我ながら思う。