2 化学的効果(薬理作用)
温泉には水道水や井戸水にない特定の成分が溶け込んでいる。これらの化学成分が皮膚から直接しみ込んだり、また飲むことによって胃腸から吸収されたりして、体にいろいろな薬理効果をもたらす。皮膚に付着した温泉の効果は約3時間持続するといわれ、温泉から出るときにシャワーを浴びていたのでは、せっかく皮膚に付着した温泉成分を洗い流してしまうことになる。
入浴後は上がり湯をせず、皮膚に温泉成分を残すことが大切である。
3 転地効果(自然環境の変化)
日常の喧噪から逃れ、自然の懐に抱かれた海辺や山間の温泉へ出掛ける。露天風呂で手足を伸ばし、大自然の景色を眺めながら、海や山のおいしい空気を吸い、自然の音に耳を傾ける。この自然環境の変化が自律神経を静め、ホルモンの分泌を促し、日常のストレスを解消してくれる。さらに海辺では紫外線、森や林ではオゾン、フィトンチッド、渓流にあっては滝の水しぶき(マイナスイオン)などが体に好影響をもたらす。これらを転地効果という。
一般に温泉で転地効果を得るためには、自宅から100キロ以上離れ、標高300~800メートルの森林の多い高原地帯にある温泉地が最適とされている。期間については2~3週間程度の滞在が必要で、昔農家の人たちが農閑期に湯治に出掛け、「一廻り7日」と称して体を休養したのがこれにあたる。
以上、解説した物理的・化学的・転地の3つの効果が相まって、自律神経系、内分泌系(ホルモン)、免疫系(抵抗力)に好影響をもたらし、人間が本来持っている自然治癒力を高め、健康の回復、維持、増進につながると考えられている(図2)。
※本稿は、『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(中央新書ラクレ)の一部を再編集したものです。