2021年12月、大分県別府市と九州大学の実証研究で、「温泉には特定の病気のリスクを下げる効果がある」と発表された。温泉入浴で腸内細菌が変化し、免疫力にいい影響を与えるというものだ。温泉の本質を知り、より効果的に入浴すれば、効果もUP!? また、旅に出られなくても、温泉の豆知識を得ることで、湯けむりに思を馳せ、癒しを感じることも…。消化器外科医・温泉療法専門医であり、海外も含め200カ所以上の温泉を巡ってきた著者が勧める、温泉の世界。安心して、どっぷりと浸かってみてください。
※本記事は『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(佐々木政一、中央新書ラクレ)の解説を再構成しています

前回●「源泉かけ流し」を見分けるコツは

医学が証明する、湯治の効果

温泉にはどのような効果があるのだろうか。

温泉が人体に与える効果・作用は、1 物理的効果、2 化学的効果、3 転地効果 の3つに分けられる。順にその効果を解説する。

1 物理的効果

(1)温熱作用

温泉は水道水に比べて体温を上げやすいため、血行がよくなり、新陳代謝が亢進し、乳酸や二酸化炭素といった疲労物質の排泄が促され、疲労回復が早まる。また、自律神経(自分の意思で自由に動かすことのできない神経)へ影響を与える。体温に近い温泉に入れば主に副交感神経が刺激され、脈拍が穏やかになって血管が広がり血圧が徐々に低下する。また胃腸の働きも活発になり、胃液などの分泌が促進され食欲も亢進し、精神はリラックス状態となる(表2)。

一方、42℃以上の熱い温泉に入った場合、最初は交感神経が刺激され、血管は収縮し内臓や筋肉は緊張し、一時血圧は上昇し、精神も緊張状態となる。しかし、しばらくすると温熱の効果で血管が拡張して血行がよくなり、血圧は低下。また新陳代謝も活発になる。したがって、朝起きて体をシャキッとさせたいときは高温の温泉に短時間入浴する。逆に、熟睡したいときは就寝の1~2時間前に低温の温泉に浸かると、副交感神経が優位になって体はリラックスモードになり、スムーズに入眠できる。

(2)静水圧作用

湯船にどっぷり浸かると、体に水圧を受ける。実際に首まで浸かれば腹部で0.4~0.5気圧の水圧がかかり、そのため腹部は圧迫されて1~2センチ程度細くなり、硬い肋骨に囲まれている胸部でさえ少し縮む。その結果、静脈から心臓への血流が増加し、心臓の働きが活発になる。さらに胸部も圧迫されるため1回の呼吸量が減り、呼吸数が増加し、呼吸機能が促進される。このような作用を温泉の静水圧作用という。運動や歩行後に入浴すると足の疲れやむくみが軽減されるのも、この静水圧作用による。

(3)浮力作用

人間の体は水の中では軽くなる。アルキメデスの原理でいくと、体を浴槽に沈めると水中では体重は9分の1になってしまう。

広い湯船で手足を伸ばし、軽くなった体を横たえたときに、「ハァ~」と声が出るのは、浮力作用によるリラックス効果の表れである。

この浮力作用を利用し、体が軽くなったところで、地上では手足を動かすことが困難な運動機能障害(脳卒中の後遺症など)がある人たちのリハビリテーションが行われ、また水中を動くことにより、水の摩擦抵抗を利用して筋力の増強効果も得られる。