なぜ昆虫は変態をするのか

ここで少し脱線しますが、なぜ昆虫はこのような変態をするのか、進化の観点から考えてみましょう。エルンスト・ヘッケルというドイツの生物学者が1866年に「反復説」という進化の説を提唱しました(図2)。

図2:ヘッケルによる脊椎動物各群の発生過程(『生物はなぜ死ぬのか』より)

この説は「個体発生は系統発生を繰り返す」というもので、例えば哺乳動物の胎児は水かき、えらや尾があり、両生類や爬虫類と似た特徴を持っています。彼の説では、哺乳動物は両生類、爬虫類を経て進化したため、このような特徴を維持しているということです。

私の解釈としては、脊椎動物の体を作り上げていく過程は、母親のお腹の中や、卵の中の「守られた環境」で起こるため選択がかかりにくく、ご先祖様と同じ姿のままでも特段の問題はなかったのでしょう。加えて、初期発生は個体の基本構造を組み立てていく過程なので、変更しにくいところでもあります。

そこで、このヘッケルの反復説を無脊椎動物の昆虫に当てはめると、幼虫は彼らの祖先であるセンチュウのような線形動物的な形態を繰り返しているのでしょう。

さて、昆虫の死に方の話に戻ります。カブトムシを見てもわかりますが、硬い兜かぶとに包まれた成虫に比べると、軟らかいイモムシのような幼虫はかなり無防備です。

土や枯れ木の中に隠れてはいますが、モグラの大好物です。食べられて死ぬのもこの時期が多いです。成虫は木の上や、枯葉の下などの浅い地中にいるのでカラスやネコに狙われますが、食べられるリスクはずっと低いと思われます。

捕食されるリスクのみならず、幼虫は行動範囲が狭いという点がデメリットです。もし幼虫のまま成虫になれないとすると、近くにいる遺伝的に非常に近い個体との交尾しかできないため、多様性の確保という面ではいまいちです。