「幼虫の時期」に秘められた大切な意味とは

そこで、より運動性が高く捕食されにくい硬い体を持った「成虫」になるように進化したのでしょう。つまり交尾のために変態するのです。

それなら変態などというめんどうくさいことをしないで、最初から成虫の形で生まれてくればいいじゃないかと思う方もおられることでしょう。

バッタの仲間はそれに近く、幼虫と成虫が似ていますが、何度も脱皮する必要があり、そのときに動けない時間があるため捕食されるリスクはやはりあります。

一方、カブトムシのような硬い殻(兜)を持つ昆虫(甲虫)が脱皮するのは、現実的に不可能です。そのため、幼虫、蛹さなぎというリスクの高い形態を経る必要があります。それ以外にも幼虫の時期に大切な意味があります。

成虫になってからの食料やメスを奪い合う戦いに勝つためには、大きな体と長いツノが有利です。そのためには、モグラに食べられるリスクはあっても、長期間にわたる幼虫の時期にたくさん食べて体を大きくしておくほうが結果的には正解だったのでしょう。

繰り返しになりますが、進化が生物を作ったのです。たまたまこのような発生過程をもつ生き物が、生き残ってこられたのです。

子供の頃、カブトムシの幼虫の重量感に驚いた経験のある方もおられることと思います。カブトムシや他の昆虫にとって、大きくなれるのは幼虫のときだけなのです。

重量感のあるカブトムシの幼虫。しかし大きくなれるのは幼虫の時だけ(イラスト提供:イラストAC)

つまり幼虫の仕事は、食って大きくなることです。成虫になった昆虫の仕事は、他の生き物同様、生殖です。

同種の異性の個体を探して動き回りますが、そのための運動・闘争能力、フェロモンの探知能力は驚異的に発達しています。例えばトカゲなどの生餌(いきえ)として売られているトルキスタンゴキブリは、100分子以下の超微量のフェロモンも感じ取ることができ、遠く離れた異性を追跡することができます。

これも繰り返しになりますが、いきなりこのような超高感度の検知能力を得たわけではなく、より交尾相手を見つけやすいものが選択されて、結果的にこうなったのです。