今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『漫画家の自画像』(南 信長著/左右社)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。

最も身近なキャラクターは自分!?

この切り口があったのか! 

雑然と並ぶ考察対象をどう整理するか、切り口ひとつで鮮やかにまとめてみせるのは「研究」の醍醐味だ。本書は、日本の漫画家たちが自らをどう描いてきたか、という「漫画家の自画像」でマンガ史を概観した、好奇心をくすぐられずにはいられない一冊だ。

作中にメタ的に出てくる漫画家自身をはじめ、エロ漫画家や連載誌の一言コメントページに載っている自画像までも考察対象として採録。どの掲載誌に自画像が載っているかなどの一覧も楽しい。

漫画家が読者に自分をどう捉えてほしいかという「自己演出」にスポットをあて、自分を卑下してキャラ化するか、三枚目に描くか、美化するか、はたまた動物化したりロボ化、モノ化したりする漫画家もいて、自意識の変遷がうかがえる。漫画家たちが描く手塚治虫の肖像、また手塚本人による手塚像も俯瞰でき、漫画家=ベレー帽というステレオタイプがいつ頃形成されたかもわかる。

しかし一覧するだけでなく、この「切り口」がもたらした気づきはほかにもあった。

それはフィクションのマンガ以外に、漫画家という得体の知れない職業に就いた人がどのような人生を送ってきたかという自伝マンガや、マンガの描き方を指南する漫画家入門マンガ、さらには私小説的な私マンガや、エッセイマンガ、漫画家という人間の恋愛やプライベートを描いたもの、『ブラック・ジャック創作秘話』といった巨匠を伝記的にまとめたものなど、ジャンルが多岐にわたっていくさまを時系列的に把握できたことだった。

各ページに実際のマンガのコマが豊富に紹介されていて、具体的で読みやすい。見返しを開いたところにある「漫画家マンガ系譜図」はぜひ紙の本で味わいたい。

作家論や作品論ではない「切り口」が登場したことは、マンガの歴史にとって幸福なことだ。