悩みを抱えていた20代後半

塩谷 :私にとって銭湯は、明日への力を蓄える場所でもあります。設計事務所にいて苦しさを抱えていた時は、お酒飲んだり、寝たりしてつらい気持ちをなくそう、なくそうと頑張っていました。でも最近は、そういうネガティブな気持ちも、なくさずに持っていていいと思うようになったんです。その感情を持った上でどう生きるかなんじゃないかって。そう思うようになったら、心が楽になったんです。だから銭湯でお湯に浸かりながら、「ああ、あの時は最悪だったな~」とか、イやなことを思い出すことはあるけれど、その気持ちをなくそうとは思わない。帰る頃にはちょっと減っているかなっていうくらいでいい。

森崎 :わかります。僕もキャンプをしていて、ふとした瞬間に「あれ、なんであんな歌い方したんだろう」とか仕事のことを思い出すことがあります。でもキャンプの楽しさでその悩みを消そうとしているわけではない。塩谷さんの言ったように、ネガティブな感情は消そうと思って消せるものではないし、例えば仕事で抱えた悩みだったら、仕事で向き合わないと乗り越えられない。僕にとってキャンプはそこに向き合うための力を溜める場所なんですよね。キャンプを楽しんで、帰る頃には「よし、また明日から頑張ろう!」という気持ちになっている。

『銭湯図解』(著:塩谷歩波/中央公論新社刊)


塩谷 :わかります。逃げずにちゃんと向き合ったら、段々と筋トレみたいに、次に向かえる筋肉がついてくる。そうすればまた同じようなことがあっても、今度は立ち向かえちゃう。なんか、通じ合うところがありますね。(笑)

森崎 :世代も一緒だからかな、すごくわかります!

塩谷 :私が一番悩みを抱えていたのは、20代後半。その時期は他の人との差にすごく苦しみました。

森崎 :僕もです! 周りの同級生は、しっかり会社員として働いて、早い人はちょっと出世し始めて、結婚とかして……。俺ってヤバいかも。大丈夫かなって。(笑)

塩谷 :そうそうそう!それが30代に入ると、私はこれでいいんだ、とドンと構えられるようになって(笑)。同じですか?

森崎 :めっちゃ、わかります。芸能界の仕事を始めたばかりで、まだあまり作品に出ていなかった頃は、同級生に会っても「まだやってるんだ。いつか夢が叶うといいね」という感じで、なかなか仕事としてやっているというのを認めてもらえていなかったんですね。趣味の延長でしょ、というか……。今こうして森崎ウィンとしていろいろな作品に俳優として出演して、音楽活動ができているのは、僕を信じて担ぎ上げてくれた人たちがいるから。その周りの存在がとても僕には大きくて。特に今の事務所には感謝しています。オーディションを受けてみたら?と事務所が勧めてくれたおかげで、スティーヴン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』に出演することができて、日本だけでなく世界の人にも僕を知ってもらえました。そこで得た経験は大きかったですし、友達も「ウィンは俳優として頑張っているんだ」と認めてくれるようになった。プレッシャーを感じたり、つらいなと思ったりすることもあるけれど、それを乗り越えた時の快感も大きい。それを知っているからしんどくても、「よし、もう一回!」と頑張れるんですよね。