おひとりさまの死後、起こるトラブル

1. 火葬

日本には「墓地・埋葬に関する法律」があり、火葬も土葬も同等に扱われていますが、東京や大阪のように条令で火葬を行なうことを決めている自治体もあります。

行政や警察、病院などが、身寄りがないということを鵜呑みにして火葬してしまったり、あるいは病院の独断で医療判断を行なったりすると、後で親族とのトラブルに発展する可能性があります。親族と疎遠だからとか、頼りたくないという感情的なことは関係ないのです。

こうしたことを防ぐために、行政や警察は、死後、徹底して親族を捜し当てます。

 

◆実例 親族の受け入れがある場合

地方の警察から、Bさんの職場に電話がありました。警察に保管されているご遺体は、Bさんの父親だというのです。30年ほど前、Bさんが高校2年生の時に、離婚届けを残して父親は愛人と失踪していました。この一件以来、大学進学を諦めていたBさんでしたが、成績が非常に良かったBさんに同情し、親族が大学の学費を援助してくれることになり、進学を諦めずに済んだのです。卒業後は有名企業に勤務し、Bさんはエリート街道をまっしぐらに進んでいました。

警察は「ご遺体に会われますか?ご遺体はどうされますか?」という答えをBさんに確認するために、戸籍と住民票をたどったのでしょう。

父のことを長年憎んでいたBさんでしたが、結婚し、子どもも当時の自分と同じ年齢になり、会社でも重要なポジションを与えられるようになっていました。すると、許しはしないまでも、以前のような憎しみは次第に薄れていったのです。「父は引き取って、故郷の墓に納骨します」と伝えて電話を切りました。

Bさんの父が住んでいたアパートは見るからにボロボロで、室内にはわずかばかりの身の周りの荷物だけ。女性の影もまったくありませんでした。警察の調べでは、日雇いのような仕事をしていた父は周囲に「天涯孤独」だと話し、過去のことを聞いても答えなかったそうです。

30年ぶりにBさんが見た父の顔は、苦労が染みついた別人のようで、涙も出なかったといいます。Bさんひとりで火葬に立ち会い、故郷の先祖が眠る墓に父を埋葬して、父との関係ピリオドを打ったそうです。

「それにしても、職場まで探し当てるとは、日本の警察の捜査能力の高さに驚いた」とBさんは振り返りました。