魔法の弾丸〈効く〉薬の誕生

19世紀後半、ドイツの医師ロベルト・コッホは、細菌が病気の原因になることを初めて証明した。

ある病気が、特定の微生物によって引き起こされている。この驚くべき発見は、医学を大きく前進させた。なぜなら、「その微生物を殺すことができれば、病気を治療できるのではないか」という発想が生まれたからだ。

20世紀初頭、ドイツの医師パウル・エールリヒは、数百種類もの化合物を用いて実験し、ついに細菌を殺せる化学物質を発見する。製造番号606号のこの物質は「サルバルサン」と名づけられ、梅毒の治療薬となった。

特定の病原体のみを狙い撃つ。この物質を、彼は「Magic Bullet(魔法の弾丸)」と呼んだ。病気の原因そのものにアプローチするという概念が、当時は「魔法」だったからだ。

それから10年ほどのち、イギリスの研究者アレクサンダー・フレミングは、アオカビの分泌物に細菌を殺す作用があることに偶然気づいた。彼はこの分泌物に、アオカビの学名Penicilliumにちなんだ名前をつけた。「ペニシリン」である。

これはのちに「抗生物質」と呼ばれ、人類の歴史を変える革新的な薬となった。
大昔の話ではない。20世紀半ばのことである。

流行する病の原因を特定し、それに合う薬を投与する、という一連のプロセスは、現在当然のものとして受け入れられている。だが、この当たり前の営みが「当たり前」になったのは、長い人類の歴史においてごく「最近」のことなのだ。