感染症の成り立ちが分かったのは「最近」
私は医師として医学を学び、人体の構造・機能の美しさに心を奪われてきた。一方で、このすばらしいしくみを損なわせる、「病気」という存在の憎らしさも実感してきた。病気の成り立ちを理解し、病気によって失われた能力を取り戻すのも、医学の役割である。
これまで医学は、多くの病気に潜む謎を解き明かし、膨大な数の治療手段を生み出してきた。
今の私たちにとって、細菌やウイルスは人体を脅かす恐ろしい存在だ。実際、これまでの人類史において、感染症はおびただしい数の人命を奪ってきた。
だが、感染症の原因が「微生物」であるという事実に人類が気づいたのは、ほんの百年あまり前である。それ以前の時代を生きた人たちに感染症の成り立ちを説明しても、きっと信用してもらえないに違いない。
目に見えない生き物が体内に侵入して、さまざまな病気を引き起こす―。
あまりにも荒唐無稽で、馬鹿馬鹿しい発想だと嘲笑されるかもしれない。