2021年8月、イスラム主義勢力タリバンにより首都カブールが陥落し、アフガニスタン・イスラム共和国は崩壊。半年以上経った現在も、国際社会におけるタリバン暫定政権の承認は進まず、現地では食料不足や治安の悪化、貧困問題が見られます。当時、大統領府が占領される混乱のなか、自衛隊機で国外に脱出した唯一の日本人が共同通信社の現地通信員・安井浩美さん。日本に一時帰国中の彼女が当時の状況を語ってくれました(構成=古川美穂)
タリバンがやってきた日
20年間アフガニスタンに住んで取材を続けてきましたが、こんな形でひとつの国家が滅びる場面に立ち会うことになるとは思いませんでした。
アフガニスタンでは1989年の旧ソ連軍撤退後、国内支配をめぐって紛争状態が長く続きました。そして2001年のアメリカ同時多発テロ事件を機に、米軍や北大西洋条約機構(NATO)が自衛権を発動して軍事介入。
イスラム原理主義を掲げたタリバン政権が崩壊し、アフガニスタンは首長国から共和国へと生まれ変わったのです。西側諸国の軍事的庇護のもと、「民主化」して20年。しかしアメリカはトランプ政権時にタリバンとの間に和平合意を結びます。バイデン政権もそれを継承。
それを受けて21年春から米軍がアフガニスタン撤退を進めるなかで、表向きは、タリバンが政府軍と戦いながら主要都市を次々と攻略していきました。8月15日にはカブールが陥落して、パンジシール州以外の全土がタリバンの支配下に。
でも、あらかじめアメリカが撤退のレールを敷いていたこともあって、激しい戦闘は最初のうちだけだったんです。あとは政府軍があまり抵抗もせず、次々と投降していきました。
そんななか、7月頃からカブール市内も何となく騒然としてきましたが、大きな戦闘はなさそうだし、私自身は退避するつもりはありませんでした。
会社からは「危なくなってきたので国外退出を」と通達が来たけれど、出国者が多くてなかなか飛行機の予約が取れません。
それで「私は大丈夫。時期が来たら這ってでも出ますから」と言っていたのです。