情けないわしについてきてくれた

そうして地道に演じていたある日、1本の電話がかかってきたんです。日本の俳優をハリウッド映画にキャスティングする、奈良橋陽子さんでした。それが2003年に公開された『ラスト サムライ』への出演依頼やったんです。主演のトム・クルーズさんを監視する侍の役やと聞いた時は、「えーっ、このわしが!? ホンマかいな?」と、最初はありえへんと思いました。

しかも、ちょうど東映撮影所の定年直前。ニュージーランドでの撮影中は半年くらい拘束されると聞いて、生活費が気になりましたけど、せっかくの話やからやらせてもらおう、と。

『ラスト サムライ』の現場では日米の撮影法の違いを体験させてもらいました。劇中にトム・クルーズさんを刀で小突くシーンがあったのですが、ハリウッドの大スターにそんなんようしませんやん、なんぼ物語のためとはいえ。そもそも日本の時代劇の役者は、立ち回りのシーンでも相手に当たらんよう《寸止め》という技を身につけてますからね。

でも監督は「本気で小突け!」と諦めへんし、トムさんも「大丈夫。僕は体を鍛えてるから。さあ、本気で小突いてこい」とおっしゃるし、奈良橋さんからは説得されるし。

結局、16回もテイクを重ねたのです。ホンマ、情けのうてね。でも、あとでわかってきました。ハリウッドではOKが出たシーンでも何テイクも撮って、その中から前後のつながりが自然に見えるものを選ぶことが。なんや、早よ教えてぇな。(笑)

貴重な経験をさせてもらいましたわ。とにかく一所懸命打ち込んでいれば人は輝くんでしょうな。それをどこかで誰かが見ていてくれる。

京都での『太秦ライムライト』の舞台挨拶を、女房はこっそり見に来ていたらしい。喜んでくれたんやろね。思えば、こんな情けないわしにあいつはようついてきてくれた。長い間パートを続けて家計を助けてくれましたしね。感謝の気持ちを表したことなんかいっぺんもありまへん。家の中で仕事の話をすることも、ないですから。照れ臭うて。日本の侍はそんなこといちいち言わん。心の中で思ってるだけでもわかってくれるのが女房とちゃいますか。

撮影所での仕事が減って、大部屋というスタイルも時代とともになくなった。大好きな時代劇の映画やテレビシリーズがなくなっていくのはさびしい限り。『太秦ライムライト』をきっかけに、いつかまた太秦が活気づく日がくるように、盛り上げていきたい。これがわしの願いです。

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