池田さんより年上の入居者は3名。一人ひとり丁寧に向き合う

義母の介護中も仕事に没頭できた

現在、「いちしの里」には、97歳の池田さん、83歳の橋本さん、80歳の橋口さん――通称「ビッグスリー」を筆頭に、60代以上のシニア看護師11名、介護士7名が在籍している。ほかにも子育て中の女性などさまざまな世代がともに働く。大先輩を慕う後輩看護師も多い。

池田さんの看護師人生もまもなく80年。育児中も親の介護中も、仕事を「辞めたい」と思ったことは一度もないというが……。

 

――看護の仕事はいつの時代も人手不足。ですから「私も頑張らないかん」と思ってやってきました。

家族も私が働くことに協力的で。託児所もない時代に、おばあちゃん(義母)は息子たちのお守りを引き受けてくれました。それもあって、80歳過ぎておばあちゃんが脳梗塞で倒れてから2年間、昼は夫、夜間は私が介護を担いました。

看護師ですから排泄の介助も苦にせんとできましたし、なるべく排便が夜に集中するように生活時間を工夫したりね。知識や経験を生かせたのも良かったと思っています。

介護というのは「いつまで続くのか」と思うと気持ちがしんどくなるものです。でも当時の私は県立病院の総婦長で、出勤すれば家のことはころっと忘れて仕事に没頭できるのがありがたかった。

今の職場でも、若い人から「介護が大変なので仕事を辞めようかと思う」と相談されることがあります。もちろん事情はさまざまでしょうが、私は「もし体がえらくなかったら、仕事で気分転換できるのはええことやから、もう少し頑張ってみたら?」とお話しするようにしています。

夫は優しい人でしたが、まあ総領の甚六(長男はおっとりして世間知らずが多いという意)ゆうんですか。お金のことでも家の中のことでも何やらもたもたするもんで、つい私が先に手を回してしまう。そんな関係やったと思います。

仕事についても何も言わず、私の思い通りにさせてくれました。ただ、家事を手伝ってくれることはあまりなかったですね。仕事で遅くなると、カレーくらいは作ってくれましたけれど。

息子2人は、県内でそれぞれ家庭を持っています。夫が亡くなりひとり暮らしになった頃に何度か「一緒に暮らさないか」と誘われましたが、「知らない人ばかりの土地で、ちょこんと部屋に座って一日過ごすの? そんなの私かなわんわ」って断りました。

仕事についても「いい加減辞めたらどうや」と4~5年前までは言われましたけど、「辞めたら私、ボケてしまうで」と返していたら、最近は何も言われません。(笑)

年に何度か遊びに来て、今も家のことをそれなりにちゃんとできているとわかれば、向こうも安心するようです。