「結婚する意思など、まったくございません」

同じころの美智子さんの気持ちを探る手掛かりとして、毎日新聞ニューヨーク支局記者内田源三の回想がある。内田は外遊中の美智子に接触した唯一の記者であった。

『天皇家の恋愛-明治天皇から眞子内親王まで』(著:森暢平/中公新書)

美智子さんは10月13日、米国に到着した。毎日新聞はニューヨークで美智子さんとの接触を図るが、東京銀行の現地駐在員だった叔母夫妻によるガードが固く成功しない。

そのなかで美智子さんがまもなく帰国する情報をキャッチした。契約社であったUPI通信の航空担当記者に依頼し、美智子さんの帰国便を特定。内田はワシントンからシカゴ、サンフランシスコを経てホノルルまで美智子さんと同じ飛行機に搭乗する。とくにサンフランシスコからの機中、およびホノルルでの待ち時間に、単独インタビューを敢行した(現地時間10月24日)。

内田の回想によると、美智子さんは「私は、皇太子さまと結婚する意思など、まったくございません」とかなり強烈な言葉で結婚を否定した。注目されるのは次の一節である。

私は、お父さま、お母さまそのほか私のことを心配してくださる方々を、私のために困らせたくはございません。また、このために私は、自分を不幸にしたり、皇太子さまをも不幸にすることはできません。私の血は庶民の血でございます。 (内田源三証言)

美智子さんの真意は、「私の血は庶民の血」と述べる箇所に現れている。平民である自分が妃となり皇室の性格を変えてしまうことは、皇室にとってよくないと考えた。旅行中、欧州王室の現況を見て、非貴族が王室に入る不適切さを感じた面もあるようだ(深山弘子証言)。

当時、ベルギーのボードワン国王、英国のマーガレット王女ら独身王族と非貴族(平民)との交際が欧州メディアの格好のネタとなっていた。米国の女優、グレース・ケリーがモナコ公妃となり、興味本位の報道の対象となった。

英語では非貴族(平民)をcommoner(普通の人)と呼ぶ。王族の格差婚は、欧州でも注目されていた。