意識がなくても体は痛みを感じている
ここまで読んで、意識がないと痛みを自覚できないのに、なぜ鎮痛まで必要になるのか、と疑問に思った人がいるかもしれない。
実は、無意識下でも痛みは体への強いストレスとなり、血圧が上がるなどしてさまざまな不具合を起こす。「痛み」とは、自覚されなくとも体には有害なのである。特に手術中は、覚醒時ならとても耐えられない大きな傷を体につける。鎮静と鎮痛は、ともに欠かすことのできない重要な要素なのだ。
また、意識がなくても、筋肉が弛緩していないと刺激によって反射的に体が動く(有害反射が出現する)ことがある。患者が動くと安全に手術ができないため、完全な無動を実現する(有害反射を抑制する)必要がある。そこで、強力な筋弛緩薬によって、全身の筋肉が完全にゆるんだ状態にするのだ。
全身麻酔中は呼吸筋も麻痺するため、自発呼吸は完全に停止する(自力で呼吸できなくなる)。そこで、気管にチューブを入れて人工呼吸器につなぎ、器械の力で自動的に換気(空気の出し入れ)を行うのだ。
さて、手術終了時は、十分に覚醒したことを確認し、自発呼吸がしっかり回復してから気管チューブを抜く。器械や麻酔科医の力を借りずに自力で呼吸できなければ、手術室を出ることはできない。