自発呼吸ができ意識も保てる麻酔

また、帝王切開や痔の手術、鼠径ヘルニア(足のつけ根のいわゆる「脱腸」)などでは、下半身のみ痛みを取り除く方法を用いることもある。「下半身麻酔」などと俗称されることがあるが、正確には「脊髄くも膜下麻酔」という。背中に注射をして脊髄の近くに薬液を注入し、それより下の範囲を麻痺させてしまう方法だ。

おおよそ、へそより下のエリアは痛みの感覚が消失し、触っている感覚のみが残る状態になる。また、運動神経も麻痺し、自分では下半身を全く動かせなくなる。

この方法も、全身麻酔とは全く異なり、意識ははっきりした状態である。医師が患者と話しながら、様子を伺いつつ手術を行うことが多い。

これら以外にも、麻酔の方法はさまざまにある。たとえば、無痛分娩などで用いられる「硬膜外麻酔」という方法や、特定の神経周囲に局所麻酔薬を注入する「神経ブロック」などもよく行われる。これらは、前述の「脊髄くも膜下麻酔」と合わせて「区域麻酔」と総称される。

ともかく医療現場では、手術する部位や種類、診療科によってさまざまな麻酔法を適切に組み合わせ、使い分けている。この領域のプロフェッショナルは、もちろん麻酔科医である。

【監修】武田親宗(京都大学医学部附属病院麻酔科)

※本稿は、『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(著:山本健人/ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。


『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(著:山本健人)

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