臓器は私たちが寝ている間も、それぞれ関連しながら休みなくはたらいている(『はたらく内臓』より イラスト◎中村知史 以下すべて)

 

解剖学者・坂井建雄先生による『はたらく内臓』は、内臓の働きが一目でわかる解説とカラフルなイラストで、健康診断のたびに手に取りたくなる、人体の解説書です。 対照的に昔の医学書のような味わいがある『すばらしい人体』は、「外科医けいゆう」としてブログ累計1000万PVを誇る山本健人先生が、人体の知識、現代医療の意外な常識などを魅力的な筆致で紹介した知的冒険の書。 世代は30年違えども、何かと共通項の多い筆者のお二人が、人体や医学への思い、ここ数十年の驚くべき進歩について語り合いました。現代の医療の課題について、お二人の鋭い視点を通して見えてきたこととは。(構成◎岡宗真由子 イラスト◎中村知史)

病気について理屈がわかっていると回復が早い

坂井 『すばらしい人体』の帯を書かせてもらうことになって、原稿を読ませていただいて最初に唸ったのは、「肛門にはウンコとオナラを見分ける力がある」という下りですね。誰でもわかっていることなのに「空砲と実弾を見分ける」だなんて「上手いことが言えているな」と感心しました。

山本 ありがとうございます。私は、これまで啓発的な内容の本を4冊出版したのですが、今回は純粋な医学の面白さに特化した本を書いてみようと思ったんです。私は消化器系の外科医なので、患者さんの体を切り開いて、患部を取って閉じて、その後手術がどういう影響を及ぼしたのかを本人の口から聞くという貴重な体験をしています。もともとその臓器がやっていた働きが一部失われたり、あるいは残ったものがそれを補ったりしている様子について直接聞くと、医学部の講義では学べない新たな発見がたくさんありました。これをいつか誰かに伝えたいと書き溜めてきたものを編纂したのが今回の本です。

写真を拡大 巨大な工場にも負けない機能が人体の中に。循環器のはたらきを図式したもの(『はたらく内臓』より)

坂井 なるほど、確かに「純粋な自然探究の本」という印象がありました。

山本 実は日頃から、「抗がん剤は毒」とか「この食べ物でがんが消える」といった科学的根拠のない情報に惑わされてしまう方に多く出会います。誤った情報を頼りにして担当医との関係をうまく築けない方や、病院にいらっしゃらずに病状を悪化させてしまう方もいると聞きます。こういった状況がある中で、私たち医者がいくら腕を磨いても、技術や知識が患者さんに還元されないもどかしい思いがかねてより募っていました。そこで、2013年頃から新聞への投書を始め、一般の方に医学・医療について知ってもらう試みをしてきました。でも、啓発的な発信は、もともと「啓発されたい」心の準備のある方にしか届かないということがだんだんわかってきたんです。

坂井 なるほど。そうかもしれませんね。