新型コロナの流行が医学界と社会に与えた影響
坂井 それから「がん告知」についても、ここ数十年でガラリと変わりましたね。一昔前、がんは治らない病気とされていたので、患者さんに「がん告知」をしなかった。家族だけが知っていて患者さん本人は胃潰瘍だと思っている、私が医学部に入った頃はまだまだそんなことが当たり前の時代でした。
山本 がんに限らず、近年はほとんどの病気が「長い付き合い」を要します。何年もの間、定期的に病院に通ったり、検査を続けたりしていかないといけない。患者さん自身の前向きな意思がないと治療が続けられないんです。こうした治療は病気を告知せずには実現できませんし、医師が言葉を尽くして治療の必要性について説明し、同意していただく必要があるんです。
坂井 コロナのことで、医師の説明責任はますます必要性が増してきたところはありますね。
山本 新型コロナウイルス感染症の場合、「コロナの症状はないけれども検査は陽性である」という人がいる。もしくは「濃厚接触者」と呼ばれ、今はまだ陽性ではないけれども陽性に転じるかもしれない人が生活を制限され、社会に軋轢が生まれています。新型コロナウイルスを地球上から一掃するのは不可能だと思われますが、ではこれからも厳密な制限を続けた方がいいのか、というと、医学だけで答えを出せる問題ではなくなっていますね。
坂井 そうです。新型コロナの流行は医学医療の大切さが知れ渡る機会にはなったものの、医学界と社会とが、平等性や経済について共に喫緊に考えなくてはいけない事態をもたらしました。
そういう意味でも、我々医師が一般の方に向けて発信していくことで、日頃から社会とコミュニケーションをとっていくことが大事だと思います。
山本 その通りですね。ところで、医学の歴史を振り返ると、特に最近1世紀の進歩の凄まじさには目を見張るものがあります。それ以前とは明らかに異質な進歩を、坂井先生はどのように分析されていますか?
坂井 医学が指数関数的に発展していくことは、医学がサイエンスになった19世紀から、あらかじめ運命づけられてきました。それぞれの医師が経験を積んで治療に取り組むのではなく、データを世界中で積み上げて行っているわけですから。だからこそお金をかければかけるほど、あらゆる治療ができるようになってきました。けれどもお金をかけてできる治療をお金の力に任せて、どんどん推し進めて行っていいのか、この問題も医学界だけでは判断できない。遺伝子治療や臓器移植などは、多くの倫理的な問題が立ちはだかる事柄です。社会がどう判断するのか、医学界は耳を傾けていかないといけない。そのためにも普段から、医学・医療に関する本を社会の方々が興味深く読んでくださっていると双方の円滑なコミュニケーションが取れていくのではないかと思います。
山本 おっしゃる通りです。これまで積み上げられてきた医学というサイエンスに日頃から興味を持っていただいていると、患者の立場になられた時も良い治療を選択することができると思います。
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