最大級のクラスター発生現場で何が起きていたのか

厚生労働省によると、国内で新型コロナウイルス感染症により死亡した人の約9割を60歳以上が占める。高齢であることは死亡のリスクを高める主要な因子の一つである。

ダイヤモンド・プリンセスは、乗客の8割が60歳以上であった。超高齢化社会を体現したかのような閉鎖空間を未知の感染症が襲った。その脅威は優雅なクルーズ旅行を暗転させ、人びとは不安に満ちた隔離生活を余儀なくされた。

ダイヤモンド・プリンセスの感染者のうち13人は、治療のかいなく、4月までに入院先で亡くなった。

家族が寄り添うことも許されず、人工呼吸器やECMO(エクモ。体外式膜型人工肺のこと)につながれて、ほとんど意識がないままの旅立ちであったろう。慌ただしい出がけのやりとりが、生きて交わす最後の会話になるとは思いもしなかったに違いない。

その誰もが高齢で、残された人生のかけがえのない時間を特別な思い出で彩るために、豪華客船に乗り込んだ人びとである。感染しながら辛くも生き延びた人にも、この未曽有の災厄は、こころとからだの両面に影を落としている。

せめてもの救いは、治療を受けることもできずに、船内で最期を迎えた人がいなかったことであろうか。

救援活動の中心を担ったのは、ボランティアで駆けつけた多くの市井の医療関係者だった。支援者たちもまた、感染の不安を抱えながら現場に飛び込んだ。

検査で陽性となった乗客乗員は症状のあるなしにかかわらず入院させる方針がとられ、150もの病院に分散して運ばれている。搬送先は、北は宮城から西は大阪まで、16都府県という広域にまたがった。

世界がまだ、新興感染症の本当の恐ろしさを実感できていなかったあのころ、最大級のクラスター発生現場となった大型クルーズ船をめぐって、何が起きていたのか。