研修に感染症対応を身につけるための科目はなかった
小井土はのちに振り返った。
「武漢の帰国者支援にDMAT動員とは、厚労省の関係者も驚いていたようだけど、総理の鶴の一声で、柔軟に対応せよ、というところから始まりました。我々も、『国難ですから』と言われれば、『それは私たちの仕事じゃありません』というわけにはいかない」
そう考えながらも、小井土は一抹の不安を覚えていた。DMATの研修に、感染症への対応を身につけるための科目はない。
教えてもいないことをやらせてよいのだろうか。
当初、DMATに求められたのは、帰国者が滞在する施設で、健康状態の経過観察をするという役回りだった。
PCR検査でいったんは陰性でも、検査をすり抜けている可能性はある。あとになって症状が出る人がいた場合にも対応できるように、現場で健康管理をする医療従事者が必要とされていた。それを担う要員として、DMAT派遣のしくみが持ち出されたのである。