生じた違和感

当のDMAT事務局にとっては、寝耳に水だった。日本DMATは、東京と大阪にある国立病院機構の病院に事務局を置く。いずれも厚労省の傘下にある。

事務局職員の救急医、小早川義貴(こはやがわよしたか)は、災害医療に関する研修会の講師として福岡を訪れていたところだった。

「政府のチャーター便で武漢から帰国した人たちの医療支援に、DMATが出るんですってね」

現地の保健所長から尋ねられて面食らった。

「え、そうなんですか? 武漢って、新型コロナ? なんで?」

「テレビでやってましたよ」

小早川ばかりではない。

東京の事務局がある立川の国立病院機構・災害医療センターにいた事務局長の小井土雄一(こいどゆういち)にとってさえ、それは驚きのできごとであった。

DMATは、医師、看護師、病院事務職員など多職種の4人ほどで一チームが編成され、地震や台風といった自然災害の被災地にいち早く駆けつけて、けが人や病人を救う役割を持つ。

全国の病院に在籍する医療従事者が自発的に参加し、決められた研修を受けて厚労省に隊員登録したうえで、被災した都道府県の求めに応じ、各病院からチーム単位で派遣されるしくみである。病院業務の一環とみなされるため活動に対する手当てはない。

違和感はあったものの、総理の指示とあっては、動かないわけにはいかなくなった。