ビールのせいで死んでしまった猫の“吾輩”

肝臓は、私たちのからだに必要な栄養素を出し入れする臓器と説明しましたが、肝臓はからだにとって不要なものの代謝にも関わっています。

代表的なものはアルコールですね。アルコールは、三大栄養素に含まれませんが、実は結構カロリーがある飲み物です。アルコールは脳の働きを抑制するので、血中アルコール濃度が上昇しすぎると、急性アルコール中毒になって死亡することもあります。

肝臓は、消化管で吸収されたアルコールを取り込み、これを酢酸(お酢の成分)に分解します。

ヒトはそうなのですが、猫の場合は肝臓でこの分解が行われないので、少量のアルコールでも致死的な影響が出ます。夏目漱石の『吾輩は猫である』の結末では、“吾輩”がビールを飲んで、酩酊の上水死してしまいます。

アルコールの3つの代謝経路(図:『肝臓のはなし-基礎知識から病への対処まで』)

アルコールが酢酸に分解される過程では、アセトアルデヒドが産生されます。これが二日酔いの原因になったり、あるいは食道癌や肝臓を含め種々の臓器障害を引き起こしたりします。

酢酸はエネルギー源として使われますが、糖質に変換することができないので、すこし使い勝手の悪い栄養素です。また、肝臓がアルコールから酢酸までの代謝にかかりきりになると、糖質からの脂肪の合成が進み、脂肪の分解ができなくなってしまいます。

その結果、脂肪肝になってしまうことがあります。つまり、アルコールはエネルギー源としてあまり褒められたものではないですし、アセトアルデヒドという毒物をつくりだすので、本来はからだにとって不要なものなのです。