成人男性の4人から5人に1人の割合で肝機能に異常があり、肝臓が悲鳴をあげていると言われる現代の日本人。「沈黙の臓器」と呼ばれることもあって、その異変に気づかないまま、病となり、そのまま死に至るケースも多いとされます。日本肝臓学会理事長で大阪大学医学部附属病院病院長を務める竹原徹郎先生によれば「肝臓は人体最大の臓器。一方で他の臓器にはない驚くべき能力をそなえている」そうです。そんな肝臓の知られざる驚きの歴史についてはこちらから。
肝臓が持つ驚くべき能力
肝臓は、他の臓器にはない驚くべき能力をもっています。それは「再生する」ということです。
重度の肝臓の病気をもつ患者さんに対して、生体肝移植という医療を行うことがあります。患者さんの家族や血縁関係にある人たちに肝臓の一部を提供してもらい、患者さんの肝臓を取り出して、代わりにこれを植えつけます。
肝臓を提供する側をドナー、もらう側をレシピエントといいます。
ドナーの方の肝臓の一部を取り出しても大丈夫な理由は2つあります。
ひとつは、肝臓のもつ「予備能」と呼ばれるものです。たとえば1500グラムのうち、だいたい3分の1があれば、肝臓はその機能を果たすことができます。
もうひとつが肝臓の「再生能」です。3分の1に減ったとしても、数か月もすると、肝臓は元の大きさに戻るのです。
人間のからだの中で、このような能力をもっている臓器はあまりありません。脳の一部を失えばたいへんなことになりますし、また、心臓も肺も腎臓も、そんなに簡単には再生しません。
再生といえばトカゲの尻尾が有名ですが、肝臓はトカゲの尻尾のように、元の大きさに戻り、そしてそれ以上は大きくならないのです。これはたいへん不思議な現象です。
実験医学の領域では、1931年にヒギンズとアンダーソンが、ネズミの肝臓を3分の2ほど切除した際の肝再生現象を報告したことが知られています。