成人男性の4人から5人に1人の割合で肝機能に異常があり、肝臓が悲鳴をあげていると言われる現代の日本人。「沈黙の臓器」と呼ばれることもあって、その異変に気づかないまま、病となり、そのまま死に至るケースも多いとされます。日本肝臓学会理事長で大阪大学医学部附属病院病院長を務める竹原徹郎先生によれば「肝臓は人体最大の臓器。それだけに人類の歴史でもさまざまな役割を担ってきた」そうです。
古代エジプトで肝臓は“生き生きとした活力”と結びつけられていた
古代エジプト人はミイラを作製するときに、鼻腔から脳髄をかき出し、内臓も全部取り出して、心臓だけは元の場所に残していたことで有名です。これは、死後の世界で冥界の神オシリスに出会った際に、心臓の重さを計量され、生前の行為に対する善悪の審判を受けると信じられていたからです。
それでは、その他の臓器はどのように扱われたのでしょうか。
脳はエジプトでは無用のものと考えられ、棄てられていたようですが、肝臓、肺、胃、腸は重要なものとして丁重に扱われています。これらの臓器は、遺体の保存と同じ方法で処理され、それぞれカノポス壺という容器に入れられ埋葬されました。
死後に、蘇った際に、これらの臓器が必要と考えられたからなのでしょう。
面白いことに、それぞれのカノポス壺の蓋は、人や動物の頭部で象られています。これは現世の天空神ホルス(オシリスの息子)の四人の息子たちの頭部です。4人の息子たちは、イムセティ(人間の頭)、ハピ(ヒヒの頭)、ドゥアムウトエフ(ジャッカルの頭)、ケベフセヌウエフ(ハヤブサの頭)というのですが、彼らはそれぞれ、肝臓、肺、胃、腸を守る神と考えられていました。
“肝臓を守る神”イムセティは、ホルスから死者を起き上がらせる役割を命じられたとされており、古代エジプトでは、肝臓は“生き生きとした活力”と結びつけられてイメージされていたようです。