肝臓は占いにも用いられてきた
実質臓器である肝臓には、「肝細胞」と呼ばれる細胞がぎっしりと詰まっており、索状(縄や綱のような、ねじれて幅広長尺の状態)に並んでいます。その肝細胞の隙間には、大量の血液が流れています。
細胞のかたまりですから、タンパク質が豊富で、かつ各種ビタミンや鉄分なども多く含まれています。栄養価が高く、古来、食料として重宝されてきました。
フォアグラやあん肝を思い出していただければ、今も食文化の重要な一角を占めていることがお分かりいただけると思います。
食料としてだけでなく、肝臓は古代の社会で意外な用いられ方をしてきました。それは「占い」の道具としてです。
古代の社会では、戦いの前に吉凶を占うことや、あるいは恵みの雨が降るかどうかを天に聞くことが重要でした。祈りとともに執り行われた卜占には、地域によっていろいろな形態があります。
私たちにとって馴染み深いのは、中国の亀卜かもしれません。中国殷代に、私たちが日々使っている漢字の原形、甲骨文字が開発されました。殷代では、王が軍事など王朝の重要事項について、甲骨を用いた占卜を行っていました。
これは、亀の甲羅に加熱した木片を押し当てて、ひびの入り方から吉凶や方角を占うというものです。甲骨文字は、その占いの結果を亀の甲に記録することを通じて、つくりあげられたものです。
一方、西アジアでは、古代バビロニアの時代から羊などの動物の腹部を開き、その肝臓の大きさや分葉の仕方、あるいは胆のうの位置を見ることによって、占いを行っていたという記録が残されています。
また、ヨーロッパでは、古代ギリシア・ローマ時代に、鳥の飛び方や鳴き声から吉凶、異変、天候などを占う鳥卜が行われていましたが、もうひとつの主要な占いが、やはり生贄の動物の肝臓の色や分葉の仕方を見るというものでした。
動物の肝臓の様子を観察することによって、国家の重要事項を占い、決定したというのは驚きです。同じ動物であれば、もちろん肝臓の色も形も似ているのですが、そこにはわずかな違いがあります。そうした兆候を見つけて吉凶を占うのです。亀の甲羅も鳥の飛び方もそうですが、悪くいえば「何とでも解釈できる」、そんな占いだったのかもしれません。