向井 これからの時代は、宇宙開発でもAI(人工知能)が活躍します。つまり、AIが得意とする膨大な量の知識や情報の取捨選択といった仕事は、人間には求められない。むしろ人間には、宇宙ステーションの中で人間関係を円滑にするコミュニケーション能力や、宇宙の素晴らしさを伝える表現力が求められていくでしょうね。
酒井 向井さんは、昔からチームワークは得意だったのですか?
向井 子どもの頃はいわゆるガキ大将タイプでした。小さい子や力の弱い子の面倒もちゃんとみて、みんなで楽しく遊べるように考える。自分勝手に威張り散らすようでは信頼されない、と遊びを通じて学んだ気がします。
酒井 宇宙だからこそ、人間の特性が浮き彫りになりそうです。
向井 ちなみに欧州宇宙機関(ESA)ではパラ・アスリートならぬ「パラ・アストロノート」として宇宙飛行士を募集しているんですよ。身体に不自由なところがあっても、無重力の宇宙空間であれば活動に支障がないかもしれない。その人の研究内容や技術がその時の宇宙開発の活動に合致すればすぐに参加できるよう、訓練を受けている段階だそうです。
酒井 夫の万起男さんについて少し伺いたいのですが、向井さんがNASAでの訓練を始めてからは離れて過ごす時間が長かったと。万起男さんは当初から、家事など生活の部分では自立していらしたのでしょうか。
向井 いや、最初はそうでもなかったですよ。徐々に、かな(笑)。私は私で、向こうは病理学者として自分の好きなことをやってきた。私たちは子どもがいないけれど、そのぶん24時間、自分の夢に向かって全力投球できたのは幸せだったと思いますね。
人生って、何もかも全部は手に入らないですから。