借金で実家が売りに出される

マリコさんの家庭は、母方の親族に入学金や生活費を借りていた。しかし生活はぎりぎりでとても返済する余裕はなく、実家を売りに出すことになったのだ。マリコさんと母親は祖母の家に身を寄せた。

海外で働きながらでも学びたいと、夢を諦められなかったマリコさんは、大学卒業後、しばらく派遣社員としてホテルで働いてお金を貯め、最低賃金が高く、チップ制度があるカナダに渡航。ところが、新型コロナウイルスの蔓延によって現地での就活は難航し、10ヵ月滞在の後に帰国を余儀なくされる。

帰国したマリコさんを、さらなる困難が待ち受けていた。母親や祖母は、生活費のため祖母の家を担保に借金を重ねていたのだが返済できず、債権者が裁判所に申し立てたのだ。強制退去になった祖母と母は知り合いの家に身を寄せることになった。

帰る家も仕事もないマリコさんを救ったのは、ネット上で知り合った人たちだ。自らの身に起きたことを書き綴り、SNSに投稿するとカンパが集まったのだ。それをもとに引っ越し費用を工面し、上京。渡航前に働いていた派遣先の上司の紹介で、職に就くことができた。

「自分のお金で暮らせるようになったのはここ数ヵ月。派遣社員なのでいつ職を失うかわかりませんが、奨学金を返済しながらなんとか暮らしています」

夢は諦めておらず、いつか海外の大学院に進学したいと話す。

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日本は学歴社会であり、高卒と大卒では生涯賃金に5000万円以上の差が出るという現実がある。つまり、貧困から抜け出すには、大学に進学することが大きなカギとも言える。

しかし、マリコさんが経験したように、勉強する意欲を持てるか、また大学進学が選択肢に入ってくるかは、周囲にロールモデルがいること、そして家族や教師の理解を得られるかが大きく影響を与える。進学校に行くことを反対されたり、高校卒業後は就職が当然という環境だったりすると、大学進学を諦めてしまう子も多いのだ。

マリコさんのように、進学後も経済的な困難が続くケースは多い。無事に卒業できても、就活に失敗したり、低賃金で働かざるをえない場合には、奨学金返済が重くのしかかり、生活の立て直しが難しいからだ。