その後、ユキさんは精神医療センターの主治医から複雑性PTSDとADHD、脱抑制型愛着障害と診断が下される。ユキさんは20歳になってから保健師立ち会いのもと生活保護の申請に行き、無事受給することができた。それにより、一人の住まいを得て虐待からは逃れたが、今の生活にも問題があるという。

生活保護受給者は住宅扶助(家賃補助)の上限が決められており、地域差はあるが、ユキさんの場合は家賃3万9000円。現在住んでいるのは、風俗で働く人たちの寮にもなっている物件だ。

「壁が薄いため、隣や上の部屋の音が響いてきて、PTSDの症状が出てしまうこともあります。持病の治療が落ち着いたら就職して、普通の生活がしたい。できるかはわからないけど、イラストやハンドメイドの仕事をしてみたいです」

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ユキさんのように、虐待を受けている子どもや若者が困難な状況を脱するには、さまざまなハードルがある。10代でも生活保護を受けること自体は可能だが、家族と同居していると同一世帯とみなされ受給することができない。一人暮らしに必要なお金が捻出できない場合には、家族のもとにとどまらざるをえない、などだ。

18歳からは児相の保護対象外になるため、孤立してしまうことも大きな問題だろう。また、虐待を受けた後遺症で、日常生活が困難になることもある。

困窮者支援を続けている「つくろい東京ファンド」の稲葉剛さんは、虐待の後遺症や精神疾患などを抱えた人の自立について、以下のように指摘する。

「過去に受けたDVや虐待が原因で精神疾患を抱えているために、就労が難しく、困窮してしまう方は多くいます。働いて足りない分は生活保護を利用したり、障害年金を受給したりして暮らすことも立派な自立です」

また、2020年4月の緊急事態宣言以降、10~30代の若年層、かつ住まいを失った女性の相談が増えているという。

「特に17、18歳から20代前半で生活が困窮し、家を失った若者の多くが親に頼れない状況です」