三谷幸喜とシットコム

脚本家・三谷幸喜が得意とする分野のひとつにシチュエーションコメディ、いわゆるシットコムがある。

ひとつの室内など、決まった場所だけで物語が展開するコメディ。劇的な展開や主人公の人間的成長は描かれない。三谷に言わせれば、『サザエさん』もシットコムだ(『笑芸人』vol.6、128頁)。

そんなシットコムへのこだわりは、アメリカの劇作家、ニール・サイモンを敬愛することもあり、他の脚本家の追随を許さない。そして三谷幸喜が脚本家として広く世に知られるきっかけとなったのも、シットコムの深夜ドラマ『やっぱり猫が好き』(フジテレビ系、1988年放送開始)だった。

内容は、恩田家の個性豊かな三姉妹(もたいまさこ、室井滋、小林聡美)がマンションの一室で巻き起こすさまざまな騒動を描いたもの。

日本のドラマではまだあまり馴染みがなかったが、このドラマが評判になったことで、シットコムの魅力が広く知られるようになった。ドラマのスタート時には、廣岡豊、清水東や大岩賞介ら他の放送作家が脚本を書いていたが、三谷幸喜は第1シーズンの後半から参加。最終的に三谷がメインライターになるという流れだった。

ドラマではないが、舞台から映画にもなった『12人の優しい日本人』(1990年初演)もまた、陪審制をモチーフにしたシットコムである。

ほんの小さなすれ違いや誤解、話の脱線が混乱を生み、事態を紛糾させる。ただそれが、見ている側からすればとても可笑しく、面白いコメディになる。そして最後は、ちょっとしみじみとしたり、感動したりする場面が用意されている。

他の作品にも通じるような、三谷幸喜のエッセンスが詰まったような作品である。