『振り返れば奴がいる』のヒット

1990年代になると、三谷幸喜は、テレビの連続ドラマでも才能を発揮するようになる。

『放送作家ほぼ全史―誰が日本のテレビを創ったのか』(著:太田省一/星海社新書)

織田裕二主演の『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系、1993年放送)は、三谷にとって初の本格的連続ドラマの脚本だった。

織田裕二と石黒賢の2人の対立関係を軸に、医療の世界における倫理観、理想と現実が交錯する様子が描かれたこの作品は、最終回の視聴率が20%を超えるヒット作となった。ただし、三谷作品としては、コメディ色は薄い。

実は三谷が脚本を担当したのも、前任者が直前に降板したからであり、彼自身手塚治虫の漫画『ブラックジャック』程度しか医学の知識を持っていなかった。

それでも急いでいた番組側が、彼を起用したという経緯があった。決してコメディを求めていたわけではなかったのである。

ただ、やはり三谷にとっては本意ではなかったようで、三谷本人が監督・脚本を務め、映画化もされた『ラヂオの時間』(1993年初演)は、このとき脚本が番組側によってシリアス調のものに書き換えられてしまった苦い経験がモチーフになっている。