妻の手記に残されていた「夢」
高校生の子どもにとって、『親が死ぬ』ことは考えもしなかった現実だったのでしょう。いままで当たり前のようにそばにいてくれた母親が亡くなり、1週間ほど学校も休んでいましたから、想像以上のショックだったと思います。
実は、残された私や子どもたちに向けて、妻は手記を残していました。その手記は、病床でどんなことを考え、子どもたちに何を期待していたのかがわかる内容で、読んだときには胸が締め付けられる思いがしました。
手記には、「怜吾が大学に行くところを見届けたい。もし神様がもっと許してくれるなら、亮吾が東大に受かるところを見てみたい」と、書かれていました。
妻は、大吾と彗吾はもちろんですが、怜吾が合格するところまでは見届けて亡くなっています。亮吾の数学に対する才能に期待していましたから、亮吾が東大に合格するところを見るのは妻にとっても夢だったのでしょう。
末っ子であり、まだ高校生だったというのも心配の理由だったと思います。その表れか、妻は亮吾への形見として結婚指輪を残していました。