時給は上がらず、契約期間は半年に

ついに意を決し、採用の確認をすることにした。その日は日曜、担当者も家庭でくつろいでいるのだろうと思ったが、どうしても結果を知りたい。私はできる限り丁寧に言葉を選んだ。「あなたは1日たった3時間しか働いていないので大丈夫ですよ」「では働けるんですね」と私は念を押した。

それから3日ほどして、新たな契約書がそれぞれに手渡された。私は素早く目を通す。記載されていたのは「契約は6ヵ月間」の文字。私は一瞬、目の前が真っ暗になった。そして手を挙げて言った。「今度から契約は半年になったのでしょうか」「いいえ、あなたは75歳を過ぎています。うちの会社は75歳が定年なのです」。

私はお情けで受け入れてもらったということか。他の人の契約書を見せてもらうと、「契約は1年間」と記してあった。今まで、他の誰よりも早く出社して、手も抜かずに一所懸命働いてきたのに。山田さんだってもうすぐ75歳じゃないか。私と同じ条件のはずなのに……。その山田さんは心得たといわんばかりの顔で、嬉しそうに上司に向かってうなずいている。

契約期間ばかりではない。私だけ時給が上がらないということもわかった。規定だから仕方がないとわかっていても悔しくて手がブルブル震え、契約書に印鑑がうまく押せない。他の皆は悠々と判を押そうとしていた。あまりに悔しいので「シャチハタなど契約書に押すもんじゃない」と言ってやった。皆、あわてて朱肉を取り出している。

同じ75歳なのに、早生まれというだけでこうも違うのか。今は半年働けるだけでよしとするしかないことは、もちろんよくわかっている。さてこの半年が終わったら、その後はどうなることやら。

 


※婦人公論では「読者体験手記」を随時募集しています。

現在募集中のテーマはこちら

アンケート・投稿欄へ