コロナ禍、自分を見つめ直すようになり農業を再開

工藤 お子さんは4人いらっしゃるんですよね。

杉浦 うん。一番上の長女が14歳で、末っ子は3歳。実は長女は小さい頃、好き嫌いがあって、特に野菜が苦手だったんですよ。でも初めて収穫した野菜が小松菜で。水で洗って「齧ってみろ」と差し出したら、「えぇっ~」と恐る恐る齧って、「甘い!」。(笑)

工藤 感動しますよね。

杉浦 いまもそのときの長女の反応が忘れられなくて。小松菜とバナナでスムージーを作ってあげたら、「おいしい!」と言って飲んで、以来、彼女は野菜を食べるようになりました。

工藤 娘さんが何歳のときですか。

杉浦 5歳でした。僕が思い描いていた食育は間違っていなかったと思えた瞬間です。

工藤 子どもの頃の影響は大きいと思います。幼少期の僕は病弱で、丈夫に育てようと考えた母は、自分の実家がある茨城県で毎日のように僕を潮風に当たらせたり、畑で採れた新鮮な野菜や魚介で料理を作ってくれたりしたんです。そのおかげでいまはとても健康だし、身体は食べたもので作られると実感するようになりました。

幼少期の経験から身体は食べたもので作られると実感するようになったと語る(工藤さん)

杉浦 食は重要だよね。お母さんに感謝だ。

工藤 そうですね、頭が上がりません。テニスをしていた学生時代にも食の重要性は常に感じていましたが、高校3年のとき、『奇跡のリンゴ』という本をたまたま読んで。絶対に不可能と言われた、自然農法によるリンゴ栽培を成功させた木村秋則さんのノンフィクションに、途中からもう涙が止まらなくなって。読み終わったあとには「オレは日本の農業を変えるんだ!」と(笑)。それからAO入試で東京農業大学を受験しました。

杉浦 そこまで決意したんだ。その頃はもうデビューしていたの?

工藤 いえ、デビューは20歳のときなんです。大学は仕事が忙しくなって中退してしまいましたが、コロナ禍で家にいる時間が増え、ここ数年でまた自分を見つめ直すようになって。

杉浦 それで農業を再開したんだ。実際、コロナ禍で家庭菜園を始めた人は多いし、「いつかは田舎で畑を耕して暮らしたい」と考えている人も多いだろうね。

工藤 「時間ができたら」とか「仕事が落ち着いたら」なんて言っていると、いつまでも農業は始められない気がして。いま30歳なんですが、50歳や60歳で始めるのと比べたら、経験に大きな差が出ると思うんです。「リスクを取らないのがリスクだ」と判断しました。