施設に入居する義母が別れ際に言った言葉は

同居して13年が過ぎた頃、新型コロナウイルスが猛威を振るい出した。社交的でよく出歩いていた義母も、老人会のイベントが中止となれば外出できない。気がかりだったのは、起床時間が日に日に遅くなっていったことだ。

徐々に義母の行動に違和感を覚え、まさかと思いながらもの忘れ外来に連れていくと、アルツハイマー型認知症との診断を受けた。

認知症になったことで、収集癖もエスカレート。吐いたタンまでお手製のタン壺にためるようになり、それが原因でコバエが大量発生したこともある。粗相した下着は菓子の空箱に入れたり、トイレットペーパーの芯の中に詰めたりと、モノに溢れた仏間は隠し場所に困らない。

こちらが考えもつかないようなところにあるので宝探し状態である。もちろん彼女に悪気はないのだ。しかし、私はほとほと疲れてしまった。

次第に症状が進行し、義母はグループホームに入居することになった。広めの個室に入れることになり、義母の荷物を運び込む。すると別れ際、義母は私の目をじっと見て「ありがとう。あとはもういらんから」と言った。一瞬、本当は認知症ではないのでは、と思うくらいにしっかりとした言葉だった。義母は笑顔で手を振っていた。