ヒョウ柄のコートと靴を見事に着こなすドヌーヴ。「私自身ならこの靴は合わせないわね」と監督に言ったそう photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

「今日は、夜8時からディナーの約束があるの」

ただ、どれだけわがままなことを言っても、ドヌーヴは本当にチャーミングで、不思議と、嫌だと感じたことは一度もなかった。クランクアップの日には僕をはじめスタッフ全員彼女のファンになってました。それに、75歳でヒョウ柄のロングコートがあんなに似合う女性はほかにいないでしょう。

おまけに、毒舌で辛辣だけど、悪口にセンスがあって、話をしているととても楽しい。そのへんは、僕の映画に何度も出ていただいた樹木希林さんと似ています。希林さんも、ウィットあふれる毒舌が魅力の方でしたからね。

ある時は、「今日は、夜8時からディナーの約束があるの」と。おそらくデートなんでしょうけど、結構大胆な勝負服でやってきて。そんな日はセリフも絶対に間違えずにテキパキと撮影を終えるし、「お疲れさま」と別れる際のキスもいつもより濃厚で(笑)。彼女にぴったりの役があったら、ぜひまた一緒に仕事をしたいと思っています。

今回の作品の軸は、長年にわたる母と娘の葛藤です。伝説の大女優だった母と、女優になれなかった娘、孫娘との関係性を描いた母子3代の物語――。なぜ、母と娘がテーマの作品を撮ろうと思ったか、ですか? 実は、僕が16年前に書いて未完成になっていた「ある女優の楽屋」を描いた戯曲があって、それを「老女優と女優になれなかった娘」の物語に改稿しようと思ったのが始まりなのです。

今回の脚本をつくるにあたって、ドヌーヴに子どもの頃の思い出やご自身の娘さんのことなど、プライベートなこともインタビューして、参考にさせてもらいました。

劇中では、自由奔放な母と娘に挟まれた、ジュリエット・ビノシュ演じる生真面目な女性の苦悩がくっきりと浮かび上がります。『歩いても 歩いても』『海よりもまだ深く』などの母と息子の物語とは趣が違い、演出している僕自身にとっても面白い経験でした。