亡くなる3日くらい前に「家に帰る」と言い出して

内田:実は、母は亡くなる3日くらい前に、急に「家に帰る」と言い出したんです。

私は「いやいや、いろいろつながれてるのに帰れないよ」と思って、主治医の先生に相談したら、「本当に帰りたいなら、今を逃したらもう帰れないです」と言われました。正直、「なんでこのタイミングで」と思ったけど、病院も動いてくださって、2日後には家に帰れました。

そして母は、戻ったその12時間後に息を引き取ったんです。

石井:ええ……!!

内田:家で、日常の中で死にたい、とずーっと言っていたその願いが本当に叶えられたんですよね。本人も“上出来な人生だった”と言って死にたいって、よく言っていましたから、本当に見事な最期でした。

30代前半の樹木さん。当時「悠木千帆」の芸名で活動していた(『婦人公論』1976年3月号より)

石井:内田さん、それってすごい親孝行じゃないですか……。

内田:いやいやいや!!

本人がそれを察知していたのがすごいと思っていて。母はものすごい感性の鋭い人だったから、自分の最期を感じ取っていたんでしょうね。動物的な本能が働いたとしか思えないくらいに。

私たち家族は、ただただ次から次へと起こるいろいろなことに対応していただけ。まさかそんな、その日の夜に死ぬとは思っていませんでした。