そしてもう一度歌ってくれるようになった

彼女をスターにした象徴的な曲だから、収録されていないということは彼女自身の意思なのだろうなと寂しく思っていたかな。ところがその後、何がきっかけだったかわからないのだけど、彼女は再び歌うようになったのね。

先日放送された伝説の8周年コンサートでは、後半たたみかけるように僕の歌(「少女A」「禁区」「十戒」「1/2の神話」)を歌っていたねと、知人が連絡をくれました。一度は離れて、紆余曲折を経て、もう一度歌う気持ちになってくれたのかなと思っています。

「少女A」ヒットから8ヵ月後、僕と芹澤廣明さんはチェッカーズと出逢うことになるのだけど、その道筋もあの歌によってひらかれたものだったと思う。

チェッカーズに「涙のリクエスト」を書いた時には、この歌は間違いなくヒットするだろうという予感がしていました。そういう特別な曲は、まるで昔から歌い継がれてきたような不思議な懐かしさを感じさせてくれるんです。

でも完成した「少女A」を初めて聴いた時には、何しろ芹澤さんと僕は無名の新人コンビですから、ヒットはおろかシングルカットされるかどうかも、アルバムに収録されるのかさえわからなかった。

それでも「少女A」はこの世に誕生した。

一人の少女には重すぎる宿命を背負わすことになったのかもしれないと、人から言われることがありますが、そうなのかとちょっと切ない気持ちにもなりますね。でも、明菜さんの歌声は本当に多くの人の心を慰めることになった。それが何より素晴らしいことです。

「少女A」は、明菜さんの運命も、芹澤さんと僕の運命も変えた作品でしたが、本当に不思議な運をあらかじめ孕んだ楽曲でした。

歌謡曲というのは作詞のプロ、作曲のプロ、編曲のプロ、それを表現する歌い手、それぞれが力を尽くしてチームワークで作られていく。たとえ詞と曲が完璧でも相性が悪ければいい歌にはならないし、歌手がダメならもちろん話になりません。歌唱力だけがあっても心に響かない詞だったら、メロディだったらヒットしない。

こういう歌が生まれる時にはいくつもの奇跡が重なっているんだな、といま振り返って思います。

歌謡曲というのは作詞のプロ、作曲のプロ、編曲のプロ、歌い手、それぞれが力を尽くしてチームワークで作られていく。「少女A」はいくつもの奇跡が重なって生まれた。

砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々

俺たちが同じ時代を駆けた証にSing For All
(チェッカーズ『Song For U.S.A.』より)

中森明菜『少女A』、
チェッカーズ『涙のリクエスト』『ジュリアに傷心(ハートブレイク)』、
ラッツ&スター『め組のひと』、『2億4千万の瞳』、
矢沢永吉『Somebody's Night』、
坂本龍一『美貌の青空』、
中谷美紀『砂の果実』
――数々の詞を書いた稀代のヒットメイカーが綴る、
ヒット誕生秘話と、輝ける時代の物語。

彼らと同じ時代を駆け抜けたことを、誇らしくも、愛おしく思う。
――売野雅勇