そんな母とこの先もつきあっていくと、母の怒りに常に触れ、無駄なエネルギーを消費することになる。これまで続けてきた母への対応も、病気になった今、同じようにできる自信はありません。昨年末には、見舞いに行きたいという申し出も断りました。そのとき肺炎で死にかけていたので、死に際に来られて医者に母の希望を言われても、妻が困るだけですから。

本来なら親が子どもの意思を静かに受け止めてくれるのがベストですが、結局、何か言わないと気がすまない。親子って本当に難しいです。

僕は写真家なので、今も「家族写真を撮ってほしい」と依頼を受けることがあります。そこで撮影する家族って大体、親子関係が良好でみんなのびのびしている。うまくいっていない家族とどこが違うのか考えていましたが、結局、親が子どもを一人の人間として認めているかどうかじゃないですか。

常に背中をそっと押してくれるような親に育てられれば、自分のやりたいことを自分で選べる人間になる。そういう親子の間には、偏った怒りは生まれないんじゃないかと思います。

子どもは親を選べません。妻は僕が自ら選んだパートナーですが、親や親類は僕が選んだものではない。そんな人たちに振り回されるなんて、おかしいと思いませんか。子が親を勘当する、つまり縁を切るという選択があってもいいのではないでしょうか。僕の3歳の息子だって、僕を選んで生まれてきたわけじゃない。勘違いしちゃいけないんです。

正直、この若さでがんになって、そういう大事なことに気づけたのは本当によかった。もしこれが15年後だったら、僕は息子に間違った教育を押しつけていたかもしれません。