100年時代の理想は「ワーク・ライフ・ケア・バランス」
「表彰って、上から下に与えるみたいで、居心地の悪さがつきまとうもの」という樋口さん。これまでいくつも賞をもらいながら、内心忸怩たるものもあったという。
ただ樋口さんには、表彰に対する意識がガラリと変わる体験があった。それは介護保険制度のできる前、介護は家族の仕事とされていたころに全国の自治体が盛んに行っていた「介護嫁表彰」だ。「模範嫁表彰」「老人介護賞」など名称はさまざまだが、献身的に家族を介護する女性を表彰する制度が各地にあった。
当初、樋口さんは、家族がひとりの女性に介護を押し付けることを礼讃する表彰制度に怒りを禁じえなかった。しかし、「高齢社会をよくする女性の会」に全国から寄せられた声をきき、宗旨替えをする。
「妻が担って当然と思われていた老親介護が、町長に表彰されるほど偉いことなのだと知り、夫がはじめて妻への感謝を口にした」
「小姑たちが介護を担う長男の『嫁』に優しくなった」
表彰がきっかけで介護を担う女性への周囲の人たちの見方が変わり、少し生きやすくなったという報告がいくつもなされたのだ。
表彰によって「介護は善行である」という考えが地域に広まり、介護の地位が上がった。表彰には周囲も含め、人びとの心に変化をもたらすメリットがあることを樋口さんは学んだ。
「上からの表彰ではなくて、みんなが少しでも生きやすくなるように、お互いに手をとって引っ張り上げていく、そんな表彰だったらあってもいいんじゃないか」と考えるようになったのだ。