介護保険制度ができて22年。その間にも少子高齢化は加速し、国の介護費用負担も増加している。制度の改編により、個人の負担も増加しつつある。

「この少子高齢化は、まさに国難。すべての長生きした人が人間らしく人生を終えられる社会を作る。それができたら、世界一の高齢国である日本の世界に対する大きな貢献になるでしょう」

理想の言葉をひとつ挙げるなら、「ワーク・ライフ・ケア・バランス」だと樋口さんは言う。「ワーク・ライフ・バランス」までは周知の通り。そこにもうひとつ加えたいのが「ケア」だ。

「生まれた子どもを育てる。障がい者を支えていく。そして一生懸命働いて社会に貢献してきた人に必ずやってくる『老い』の時間を、なんとか無事に生きぬけるように。そんな世の中になってほしいと願うのです」

幸い乳がんの手術は無事に成功。「担当医によれば、術後10年生存率は80%ほど。10年たったら100歳です」と笑う樋口さん。12月には第1回の樋口恵子賞受賞者に自ら賞状を渡したいと思っている。

90歳を機に、2年後に「高齢社会をよくする女性の会」の理事長を退く意向を会員たちに伝えた。40年続けてきた活動も、そろそろ若い世代にバトンを渡すべき時だと考える。

一方で今年は著作の刊行も相次ぎ、8月22日には新刊『老いの玉手箱』(中央公論新社刊)を上梓。

「まだ二、三、書きたいものが残っております。ポツポツ書き進めていって、途中くらいで死ぬのがカッコいいんじゃないか」

そう冗談めかして語る口調はなめらかで、生気に満ち溢れていた。

90歳、いまも現役で走り続ける。