1923年生まれで11月には98歳となる作家・佐藤愛子さん。ある日電話をしている最中に昏倒し、そのまま動けなくなってしまいます。ようやく少し身体が動くようになってからご家族の名前を呼ぶも、やってきたのは不愛想な猫のクロベエだけで――。
電話中に昏倒!
思えばこのエッセイを書き始めた時、ふと思いついたのが「毎日が天中殺」というタイトルだったのだが、今思うとあれは神の啓示であったのか。それともこのタイトルをつけた以上は何かことが起きなければならぬという自己暗示が働いているのか。過ぐる5月24日夜、電話中にゆえもなく私は昏倒したのである。
その日の昼過ぎ、難儀に難儀を重ねていた原稿をやっと書き上げ、A誌にFaxしてヘトヘトのまま夜を迎えてダイニングの椅子に腰かけたまま、テレビもつけず夕食もとらずぼんやりしているところへA誌の担当記者から電話がかかった。その応答をしている時だった。
渡した原稿のある個処の文字がよくわからないというので、それじゃ、元の原稿を見てみます、といったところまでは覚えている。原稿を取りに書斎へ行こうとした筈なのに、気がつくと私は廊下へのドアとは反対の方角にぶっ倒れていて、手にしていた筈の電話はどこへすっ飛んだのやら、メガネはふっ飛び大腿から脇、肩、顔、頭、左側面すべてを強打して動けない。
娘一家は2階にいるが、その場から叫んでも聞えるわけがないから声を上げなかった。