どしたのもヘチマもあるかいな

驚いたのはA誌の記者さんだろう。いきなり、ドターンと地響が聞えたと思ったら、あとはシーンとしている。この状況を伝えたいにも電話はどこにあるのやら、 探すにも身体が動かない。手も足も動かないからジタバタも出来ないのである。仕方ない。2階から娘か婿か孫かが降りて来るまでこのまま、ぶっ倒れてるよりしょうがないと思い、倒れていることにした。

しかし待てよ。時間はもう9時を過ぎている筈だ。その時間になってから、2階から誰かが降りて来るということはまずない。とすると私は明日の朝までこのままと床の上に倒れているということになる。毛布も枕もなく。

そのうち、少し身体が動くようになったようなので、ジリジリと這ってダイニングを出、更に廊下を這って階段の下に辿りつき、娘の名を呼んだ。

といってもその声はとても二階に届くほどの声ではない。二階からはテレビを見て笑っているらしい孫の「ヤァーハハハハ」というアホウさながらの笑い声が聞えてくる。二度、私は娘の名を呼んだ。階段の上にヌウと顔を出したのはいつも無愛想な猫のクロベエである。

「なにやってんだ? ばあさん」

というように、しげしげと見下ろしている。

不愛想な猫のクロベエがやってくるも(写真提供:写真AC)

やっと娘が気づいて、猫は引っ込み娘が現れた。「どしたの?」という。どしたもヘチマもあるかいな。見ればわかるだろう。絞り足りない雑巾みたいにへたばっている姿を見れば。なにがどしたの? だ。と思ったが、それを口に出す力はもうなかった。漸くいえたのは、「いきなり倒れたんだよ......」 の一言だった。

娘と孫がどたどたと階段を降りて来て、二人がかりで両脇を抱え、さし当って一番近い小部屋に私を寝かせた。

え? 猫はどうしてたかって? 知りません! そんなこと。