生きていてよかった思いながら演じると思う

出演が決まった時、父は「チャンスだからがんばりなさい」、母(編集部注・タレントの三田寛子さん)は「いただいたチャンスを無駄にしないように頑張って」と励ましてくれました。一番上の兄(橋之助)には「ずるいなぁ……」と、とてもうらやましがられました。勘九郎の兄は、小さいころから僕たち兄弟を見てきたので、3人兄弟の中で僕と福之助のキャラクターや関係が、丘十郎と大作に合うと直感されたのだと思います。

僕たち三兄弟は、全員立役(男役)だと大変だねとよく言われます。でも、それぞれ個性は違います。例えば、本番前。福之助の兄は舞台に出る前までおしゃべりをして、そのまま自然に演技に入っていきます。父も同じ。一番上の兄の橋之助は直前まで話していても、意識的にパチッと変える。僕は、出るまで不安で直前は何も考えない、無になります。でも舞台に出るとスイッチが入り、そこにいることの幸せがふくらみます。(坂東)玉三郎のおじさまに言われました。「舞台に立つと3人の中で一番あなたが堂々としているわ」と。『新選組』もおそらく初日は緊張するでしょうけれど、歌舞伎座のど真ん中にいられることがどれだけ幸せなことなのか、生きていてよかったと思って、演じることになるのでしょう。

深草丘十郎役の歌之助さん(左)と、鎌切大作役の兄・福之助さん(写真提供◎松竹株式会社)

丘十郎という人物には、ある意味現代性があります。普通の家庭に生まれたけれど、ひょんなことで父親を失う。そこで「仇討ち」という目的をたてて新選組に入り、つき進んでいきます。その過程でいろいろな人と出会い、本当に仇討ちが正解だったのかと悩み、真に自分がやるべきことを模索します。やられたらやり返すことが本当の正義ではなく、前に進めることが人のすべきことだと気づく。最終的には平和を願い、自分が選んだ道に進むのです。

現在、新型コロナウイルスやロシアによるウクライナ侵攻の問題が世界を覆っています。自分にとって何が重要なのか、答えを見出せない若い人は多いのではないでしょうか。そのような状況下でいろいろな人と会ったり、いろいろな経験をしたりして行きつく場所を見つけようとしている。時代は違うけれど、共通するテーマ性があると思います。